第3章 発展期

1958

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1988

第1節 ビル事業の拡大

6 麹町ダイビルの完工

当社は東京都千代田区麹町5丁目の土地2645m2(800坪)を1963(昭和38)年9月に取得し、当初は周辺が閑静な高級住宅街であったことから高級賃貸マンションの建設を予定していたが、1973年秋に発生した石油危機によって着工の遅延を余儀なくされた。経済情勢や金融政策の変化を受け、当社も土地の有効利用を促進することになったが、1975年ごろになると隣接地にオフィスビルが建ち、従来の高級住宅地からオフィスエリアへと変貌しつつあった。そこで当社もマンション建築計画を白紙還元し、収益性の高いオフィスビルへと計画を変更した。

  • 麹町ダイビルとイチョウの大木

設計・監理を村野・森建築事務所、施工を鹿島建設に発注することを決定し、その設計をもとに数次にわたって住民説明会を実施した。住民側からは日照権の確保、風害への配慮、冷暖房に起因する諸問題の解決、ゴミや汚水の処理対策、景観への配慮といった要望が寄せられ、折衝は難航したが、誠意を尽くした説明の結果、1975年1月17日、麹町5丁目町会長との間で協定書が取り交わされ、工事着工の見込みが立った。麹町ダイビルは同年4月3日に起工され、1976年9月21日に完工した。

構造は鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造で地上7階、地下2階、塔屋1階だが、これは敷地の形状、容積率、前面道路からの斜線制限などの関係によって奥行きが浅く、間口の広い建物であることから耐震性を考慮した柔構造を採用したことによる。外装は淡いベージュ色の彫りの深いプレキャスト・コンクリート・パネル(PC)版を使用し、正面から見ると西欧の教会を連想させる格調の高さが強調された。内部にも細心の配慮がなされたが、特に重視したのは周辺の景観との調和であった。正面玄関の右前に立っていた樹齢100年を越えると思われるイチョウの大木をそのまま残し、大きなオープンスペースを採り入れた樹苑を設置した。

なお、麹町ダイビルはビルを1企業に一括賃貸するという当社にとって初めての1ビル1テナントの事例となった。入居したのはアパレルメーカーの東京スタイル(現TSIホールディングス)であった。