03 1963 大阪 新ダイビル 大駐車場や屋上樹苑といった
時代を先取りした先駆的オフィスビル

建築家村野藤吾の建築思想

後に完成する北館と合わせ、新ダイビル全体の設計を担当したのは渡辺節の弟子にあたる村野藤吾である。村野は製図主任として大阪商船神戸支店ビルやダイビル本館に携わっており、渡辺の設計技術や思想を受け継いでいたが、一方で村野なりの建築思想も持ち合わせていた。それを端的に表しているのが「私がいつも考えておりますことは、建築と人間との関係ということです」という彼の言葉だろう。

  • バルコニーに飾られた羊

建築物の社会的機能を緻密に考えながら建築と人間との関係性を考え抜いたうえでの設計を心がけていたのである。新ダイビル南館はそうした考えを曲がりなりにも表現しようとした建築であり、それは新ダイビルの外観で端的に表現されていた。ビル全体は直線で構成されているが、そこから受ける硬直的な印象を和らげるための設計上の工夫がされているのである。その象徴が4階の四隅にバルコニーを設け、そこにそれぞれ2頭の羊の彫刻を飾ったことだろう。この藤本美弘作による丸みを帯びた羊の彫刻によって外から見るビルの印象は大きく変わっている。また、本来は経済性を重視すべきオフィスビルであるにもかかわらず、エレベーターホールや廊下、階段、湯沸室、トイレなどの共用部分に広いスペースを確保しているが、これも建築と人間性の関係を重視する思想からであった。

こうした村野の建築思想は新ダイビル北館でも貫かれることになる。