10 2015 大阪 新ダイビル 旧・新ダイビルの理念を継承し
環境共生ビルとして誕生

屋上樹苑の移植計画への挑戦

新ダイビルの建て替え計画において最大の挑戦となったのは、「価値の継承」という理念に基づく屋上樹苑の移植計画であった。完成時の屋上樹苑には当時の資料によれば「草木百種、樹数は常緑樹3,759本、落葉樹522本、草花類1,110本、その上、野鳥を招き、渡り鳥を休ませるために餌箱、水槽」があり、半世紀を経てオフィスビルの屋上とは思えないほど樹木が生い茂り、森のような様相を呈していた。それを可能な限り、地上に移植しようというのである。屋上緑化において樹齢50年を超える樹木の移植は過去に例がなく、まさに初めての挑戦であった。

  • 旧・新ダイビルの屋上樹苑

果たしてそれが可能なのか。可能ならば、どのような方法で、どの樹木を移植するべきか。ダイビルではそのための調査と検討を行い、最終的に予備木を含めツバキやクスノキ、ヤマモモ、サカキなど計25本の樹木を移植候補木として選んだ。国立の研究機関によって考案された林試移植法によって8~11カ月にわたる樹木養生を行い、そこから樹勢の盛んな22本を選び、根回し工事、根巻き、移植工事(移植のための掘取り、根巻き、屋上階から地上までの荷下ろし、運搬)を実施したのだが、そのまま移植したわけではない。旧・新ダイビルの解体と新・新ダイビルの完工とで時間差があったため、仮植地で養生させなければならなかった。仮植地では排水条件を考慮した基盤に根鉢周囲に発根を促す堆肥を配し、約4年にわたって養生を行った。そうして新・新ダイビルが完工し、敷地内に約1000坪の「堂島の杜」が整備された際、そこに移植されたのである。

移植のための調査で判明したこともあった。旧・新ダイビルの屋上樹苑は平均36cmと土壌が薄く、保水性の低い「シルト性砂壌土」であったにもかかわらず、多くの高木性の樹木がほぼ自然な樹形で健全に育っていたことである。最大で12mまで生育していたというから、屋上樹苑がいかに植物に適した環境にあったかがわかるが、専門家によれば、それ以上に重要だったのは、熱心で丁寧な管理がなされていたからだとする。半世紀にわたり自然との共生を目指してきた姿勢があったからこそ自然環境が保たれていたのだった。