03 1963 大阪 新ダイビル 大駐車場や屋上樹苑といった
時代を先取りした先駆的オフィスビル

受け継がれる自然への思い

新ダイビル北館においてもう一つ画期的だったのは、わが国で初めて屋上樹苑を設置したことである。これを見学した高名な文学者であった福田恆存(ふくだつねあり)は、「十二層の建物の屋上に約一千坪築山あり芝生あり、その間に植ゑた草木百種、樹数は常緑樹3,759本、落葉樹522本、草花類1,110本、その上、野鳥を招き、渡り鳥を休ませるために餌箱、水槽を用意し、その水もカルキいりではかはいそうだというので浄化作用まで施してある」と驚きの混じった文を残している。そして、この屋上樹苑設置の背景となったのが、当時の工藤友惠社長が抱いていた自然を護ることに対する強い信念であった。工藤社長は言う。「土地開発は人間の生活に、或いはその向上に、必要である。それは土木建築の形で行われるのであるが、現今の土木建築は多かれ少なかれ自然の破壊を意味するものと一応認めざるを得ない」ことを認めた上で次のような考えを表明する。「自然を保護しつつ、生きとし生けるものの生活環境を維持しつつ、土地を開発し人間生活の為の土木建築を進めるのが人間の叡智であり萬物の霊長たる所以である」と。この土木建築と自然保護に対する深い造詣から生み出されたのが屋上樹苑にほかならなかった。

屋上樹苑に込められた思いはその後、八重洲ダイビルにも生かされたほか、同じコンセプトに基づいて設置された「中之島四季の丘」にも受け継がれていった。2015(平成27)年3月に完工した新・新ダイビルでもその思いがそのまま継承されることになった。敷地内に約1000坪の緑地「堂島の杜」が設置され、新ダイビルの屋上樹苑にあった樹木や草木の移植、再養生が行われたのである。半世紀にわたる年月によってビルの屋上とは思えないほど生い茂った樹木を屋上から地上に移植するという取り組みは前例がなく、樹形を損なう恐れがあったが、入念な調査と計画立案により移植計画を断行した。最終的に22本の樹木を移植することに成功した。

完成した堂島の杜を含む新ダイビルは公益財団法人日本生態系協会による「JHEP認証」において、西日本初となる最高ランク「AAA」を取得するなど、生物多様性の保全でも高い評価を得ている。